1.歴史と基本
19世紀末、既に出来高の重要性は認識されていたと考えられます。
なぜなら、当時、ダウには「価格のトレンドを裏付けるのは出来高である」という信念があったからです。
1900年代になって、サム・ネルソン、ウィリアムズ・ハミルトンが「ダウ理論」を提唱しています。
1930年代になって、リチャード・ワイコフが、価格に対して需要と供給を示す出来高の重要性を提唱しました。
1960年代になると、グランビルがオンバランス出来高(OBV)を考案し、出来高が(棒グラフで価格チャートに付随する情報から抜き出て)独立した指標として確立され始めました。
2000年代に入ると、単なる出来高ではなく、買い方と売り方のエネルギー(圧力、勢力)を出来高と価格の組み合わせで表す指標が提唱されるようになりました。➡出来高は、売買成立時の値段における売り・買いの圧力を表していると考えられます。➡値動きの背後にある勢力や切迫感もうかがえます。
また、価格動向を捉える指標だけでなく、アームズインデックスのように、市場全体の方向性を構成銘柄の出来高を用いて捉える指標が提唱されており、出来高を用いた指標は今後もその応用分野が広がると思われます。➡需要と供給の原理を理解すれば、根拠のある意思決定が可能となります。
出来高分析の基本として、➊ダウ理論における「株価との相関性」と➋「出来高は株価に先行して動く」傾向を理解しておく必要があります。
➊ダウ理論では、トレンドが発生したと言うためには「価格と出来高は同時に確認できなければならない」とされています。➡「トレンドは出来高でも確認されなければならない」ということです。人々の売買行動は出来高に現れるので、チャートと併せて出来高の変化も見る必要があるのです。
トレンドの上昇(下降)局面では、常に価格と出来高が正(負)の相関を持ちます。
したがって、出来高指標は価格関連のテクニカル指標と並列に捉えることが重要です。
つまり、価格関連のテクニカル指標での判断が異なるときは、注意が必要です。
➋出来高の先行性は、価格の均衡点に対する需要と供給の偏りと捉えます。
グランビルがOBVを提唱した時代は、米国株式市場に機関投資家の資金(スマートマネー)が流入し始めた時期であり、需要と供給で情報と資金量に大きな隔たりがあると考えられていました。
例えば、機関投資家が買い始めたときは、一般投資家が売り方となります。
そのため、出来高は増加するものの、価格はあまり変動しないと考えられます。
その後、出来高の増加を受けて、価格が上昇すると、機関投資家は売却に転じ、一般投資家がその受け皿になるという具合です。
出来高が株価に先行するとよく言われますが、これを後押しする人気の裏付けが反映すると考えられます。
売買高のピークやボトムは、株価のピークやボトムに先行すると言われますが、何故なのか、考えてみます。
株価が長期間低迷している銘柄は注目度が低く、多くの投資家にとって投資対象と見られていません。
そのため、企業業績などが改善しても、大勢によって即座に注目されることは少ないのですが、一部の投資家が相場反転を見越して打診買いを入れ始めます。
相場反転の見方が正しければ、株価は徐々に底堅くなっていき、同様の投資判断をする投資家が増えるため、出来高が徐々に膨らみます。
他の投資家の関心を呼び、投資妙味に気付く投資家がさらに増え、株価は上昇基調に転じます。
株価が急落する場面では、損切りと空売りが入り乱れ、合理的な水準を割り込んで下げてしまいます。
一方、十分に下げたところでは、新規買いと、空売りの買い戻しが入るため、ある程度下げると、出来高は増え始め、株価は下げ止まります。
下げ渋りを見て、買い戻しがさらに増え、出来高を伴って株価は上昇に転じます。
この結果、株価が底を付ける直前から、出来高が先に増え始めることが多いです。
株価上昇局面は、先高を期待した買いと利益確定売りが交錯し、出来高が増加しやすいです。
ですが、十分な時間が経過して上昇幅が大きくなると、先高期待が小さくなると同時に高値警戒感も強まり、買いを手控える投資家が増えてきます。
この結果、株価が天井を付ける直前から、出来高が先に減少することが多くなります。
以上の理由から、株価のピークやボトムに先行しやすくなります。
2.各局面における指標の動き方
1)上昇局面の出来高増加
上昇局面を需給面で捉えると、買い需要が売り供給を相対的・継続的に上回っている状態です。
確かに、買い需要と売り供給の相対的な差は、時間と共に変化しています。
しかし、需要が供給を誘引することによって出来高の増加がもたらされると考えられるのです。
このように、上昇局面での出来高増加は、買い需要が絶対的にも相対的にも大きいことを示唆しています。
これは、価格の上昇を確認する上での根拠となり得ます。
ただし、上昇局面の初期段階での出来高の急増には注意が必要です。
確かに、買い需要が売り需要に対して相対的に大きいことから、出来高が急増する場合もあります。
これは「出来高は株価に先行して動く」傾向に合致しています。
しかし、以前の下降局面が今後継続する中で売り供給が増大する可能性もあるため、注意が必要なのです。
2)上昇局面における出来高減少
買い需要が継続的に旺盛であっても、売り供給に対して相対的に小さいと、上昇局面でも、出来高が減少することがあります。
これによって、価格は横這いか、一時的に下降しますが、絶対的な需要に支えられている限り、下降局面に推移することは少ないと考えられます。
ただし、上昇局面の最終段階では、価格に起因する要因(相場の過熱感・買い方の目標達成感など)から、買いの絶対的な需要が減少します。
これによる出来高減少は、下降局面の初期段階への移行を暗示しています。
なので、オシレーター系の価格指標も使った分析が必要になります。
3)下降局面における出来高増加
下降局面を需給面で捉えると、売り供給が買い需要を相対的・継続的に上回っている状態です。
売り供給が継続的に旺盛なことから、下降局面が形成されると考えるのです。
このように、下降局面での出来高増加は、売り供給が絶対的にも相対的にも大きいことを示唆しています。
これは、価格の下降を確認する上での根拠となり得ます。
ただし、株式市場での価格急落時の出来高の急増には注意が必要です。
価格急落時には、➊損切りによる売り増大、➋信用取引の追証発生に伴う損切りの一方、➌自律反発を期待する短期投資家の買いや➍空売りしていた投資家の利益確定の買い戻しが入り、出来高が増大するからです。
これをセリングクライマックスと言います。
セリングクライマックスの後は、需給が改善されることで、上昇局面に転じるケースが散見されます。
4)下降局面における出来高減少
下降局面での出来高減少は、買い需要に対して、売り供給が相対的に小さいことを示唆しています。
特に、株式市場では、潜在的に様々な層からの買い需要があるのに対して、売り供給は株式保有者によるものに限られるので、供給の減少が株価を一時的に反発させることがあります。
ただし、供給の低下に伴う流動性の低下によって、価格をさらに下落してしまうことがあります。
下降局面の原因となった外部要因(業績悪化など)が顕在化した場合には、価格急落の可能性があるので、注意が必要です。
5)出来高と株価の関係
以上から、出来高と株価の関係のポイントをまとめると、次のようになります。
Ⅰ.出来高が株価に先行するケース | ★株価が長期間下落した後、上昇に転じる直前に出来高が増加する。 ★高値圏で株価が直前高値を抜けたにもかかわらず、出来高は直前高値時の水準から減少する場合、株価は間もなく反落することが多い。 |
Ⅱ.出来高と株価が同時並行するケース | ★揉み合い相場で形成される上値抵抗線や下値支持線、あるいは直前高値や直前安値をブレークした時、窓の形成を伴って急騰や急落する時に出来高が増加する。 ★ブレーク時に出来高が増加すると、トレンド移行への信頼性が高い。 |
Ⅲ.出来高が株価に遅行するケース | ★株価の上昇(下落)によって出来高が増加(減少)する。 |
3.使用上の留意点
1)上昇時と下降時で対称でないこと(非対称)
需要と供給に基づいた均衡価格の決定は、市場の効率性と投資家の合理的行動を前提としています。
したがって、上昇(下降)トレンドでは、価格と出来高が正(負)の相関を示すことになります。
しかし、現実の市場では、投資家の非合理的な行動が出来高を通して示されることがります。
例えば、次の3つのケースがあります。
➊上昇(下降)局面での価格上昇(下落)時に出来高が(セオリーとは逆に)減少するケース➡価格が長い間、同じ方向に連続して推移すると、投資家の警戒感が強まり、その影響で出来高の増加が妨げられてしまいます。
➋価格が大きく変化するとき(トレンド反転局面や下落局面での更なる下落時など)に出来高の推移が不連続になるケース➡意図せぬ価格変化に対する投資家の過剰な反応(合理的でない行動)によります。
❸価格の上昇が期待される場面で買い注文が増え、下降が予想される場面で買い注文が手控えられるケース➡このような投資家の傾向があるので、上昇局面と下降局面に非対称性が生じます。
➊➋❸のようなケースがあるので、価格指標を併用して投資判断を行う必要があります。
2)需給以外の要因による変動
出来高指標を個別株で使う場合は、当該銘柄の➊市場流動性、➋外部イベント、❸売り方・買い方の事情を考慮する必要があります。
➊例えば、小型株など市場流動性が乏しい銘柄では、機関投資家からの投資が限定され、一般投資家の動向が大きく影響するため、少額の売買で出来高や価格が大きく変動し、出来高指標が異常値を示す場合があります。➡出来高指標による分析は、流動性が高い大型株を対象にした方が有効です。➡一般に、出来高の大きい銘柄の方が値動きが緩やかで、出来高が小さい銘柄は値動きが激しい傾向があります。なので、出来高が大きい銘柄ほど損切り位置は近く、小さな銘柄ほど損切り位置は遠い方が理にかないます。➡また、同じ銘柄でも、出来高が活発な時に付けられた価格は、投資家が関与した値段を示しているため、説得力が高く、反対に、出来高が低調な時に付けられた価格は、あまり投資家が関与しておらず、一時的なダマシとなる可能性が高いと言えます。
➋外部要因によって、これまでの需給関係が投資家の影響に関係なく大きく崩れてしまえば、出来高指標の推移で価格の変化を捉えることは困難になります。➡当該銘柄が株価指数の構成銘柄に組み入れられたり除外されたりする場合、他企業と合併した場合、倒産した場合などです。
❸株式は、取引所取引だけでなく、店頭市場(OTC)での売買も活発です。しかも、レンディング(株券貸借取引)市場の拡大によって、単なる現物株の売買だけでなく、信用取引も活発に行われています。➡出来高の属性を考慮した上で、出来高指標が示す結果を考慮する必要があります。
出来高指標を株価指数先物の分析に用いる場合、SQ(特別清算指数)算出日近辺での出来高急変に注意する必要があります。期近限月の取引最終日と清算値の算出を意識して、出来高が大きく膨らむ場合があるからです。
4.具体的な出来高指標の分類
出来高指標には、大きく分けて、次の3分類があります。
1⃣出来高自体の推移を指標化したもの(価格には、上昇日か下降日かを区別する以上の機能を持たせていません。➡上昇(下落)日の出来高を全て買い(売り)エネルギーとカウントします。➡小幅の上昇が続くと、見かけ上、過熱の数字が出てしまいます。➡株価の騰落率を反映しないためです。)
2⃣出来高と価格を組み合わせた指標(株価の騰落率を考慮しています。)
3⃣出来高に移動平均の考え方を取り入れた指標
4⃣1⃣~3⃣を問わず、累積指標
3つのカテゴリーに属する指標を整理すると、次のようになります。
1⃣ | ★出来高レシオ(VR)、★出来高RSI(VRSI)、★出来高変化率(VROC) | |
2⃣ | ★チャイキン・マネーフロー(CMF)、★需要指数(DI)、★エルダー勢力指数(EFI)、★マネーフロー指数(MFI) | |
3⃣ | ★価格変動指標(EMV)、★出来高オシレーター(PVO)、★正規化出来高(NV) | |
4⃣ | ★ADL(CMFの派生指標)、★需要オシレーターモメンタム(DOM:DIの派生指標)、★オンバランス出来高(OBV)、★価格出来高トレンド(PVT) |
これらのうち、比較的ポピュラーな出来高指標である、出来高レシオ(VR)とオンバランス出来高(OBV)について、詳しく見ていきましょう。
5.出来高レシオ(VR)
VRは、一定期間における株価上昇日の出来高合計と株価下落時の出来高合計の比率です。
様々な計算方法がありますが、私は合寶郁太郎氏の方法が気に入っています。
それによると、VR=(n日間の株価上昇日の出来高合計+前日比変わらずの出来高÷2)÷(n日間の株価下落日の出来高合計+前日比変わらずの出来高÷2)
nのデフォルトは14ですが、実際には25を使うことが多いです。
合寶氏のVRは、100%を中心に動き、下振れより上振れが多いという特徴があります。
50%以下ですと、売られ過ぎと判断します。
例えば、VRが120%だとしたら、株価上昇日の合計が株価下落日の合計より20%多いことを示しています。
以上に対し、分母を「n期間全体の出来高合計」として、VRの中心を50%にする手法もあります。
VRの分析のポイントは、❶VRがどちらの方向に向かっているか、❷株価の高値更新時や高値圏で揉み合っている時、先にVRがピークアウトしたら、それを売りシグナルとできる可能性があること、逆に、❸株価が底値圏で推移している時に、VRが先にボトムアウトしたら、それを買いシグナルとできる可能性があることなどです。
VR分析の注意点は、➀株価の騰落率は考慮されていないこと、➁算出期間を視野に入れた観察が必要であること、③株価の低迷局面や下落局面では使いにくいこと、➃流動性の低い中小型株よりも流動性の高い大型株の方が使いやすいことです。
6.オンバランス出来高(OBV)
OBVは、J.E.グランビルによって考案された出来高分析指標です。
出来高を株価上昇日のもの(UV)と株価下落日のもの(DV)に分け、UV(DV)を全て買い方(売り方)によるものとみなします。
一定基準日以降、UV(DV)は加算(減算)して累計していきます。
前日比変わらずの場合は前日の累計を持ち越します。
算出された累計が当日のOBVの数値であり、グラフ化したものがOBV線です。
株価とOBV線が並行してピーク(ボトム)を更新している場合は株価基調の信頼性は高いです(株価基調の確認)。
株価が新高値を更新したにもかかわらず、OBV線がピークを更新できず、停滞する場合は、株価は間もなく下降に転じます(OBV線の非確認)。
一方、株価が頭つかえの動きにあるとき、OBV線がピークを更新していくと、株価も間もなく新高値に進みます(株価の非確認)。
このように、OBV線は株価の先行指標として活用できます。
ただし、出来高が株価より遅行する例外的な局面もあるので、他の指標も併用しながら、複合的に分析することが必要です。
OBVの長所は、累積差数を繋いだ線であるため、個々の局面におけるトレンド系指標としての有効性があります。
短所は、基準日の取り方によっては、数値に大きな差が生まれるため、絶対数値そのもので相場を判断することや、過去との比較ができない点があります。