テクニカル分析~他の分析・仮説との対比

1.テクニカル分析とは何か

テクニカル分析とは、金融界で、価格や出来高などの過去の推移から将来の水準や変化の方向を予測する手法の総称です。

デビッド・アロンソンは、客観的な統計的証拠によって裏付けられたものを「科学的テクニカル分析」、裏付けのないものを「伝統的テクニカル分析」としました。

ここでは、テクニカル分析を、価格などについて過去の推移から現状を分析し、それをもとに将来予測を試みる手法としておきます。

そこには、「伝統的テクニカル分析」から「科学的テクニカル分析」に至るまで、広範な手法が含まれます。

それぞれの手法が、どのような発想から生まれ、改良され、進化していったのか、また、長所や短所はどう異なるか知ることが大切だと思います。

なぜなら、それらを知ることによって、将来を予測する上で何に注目し、何に注意すべきかを理解できると思うからです。

テクニカル分析の目的は、①需給の変化を察知すると共に、②勘や感情を含まないシグナルを得るためです。

企業業績、金利、為替レート、天候不順、国際関係の変化など、あらゆることが株価や商品の価格に直接的あるいは間接的に影響します。

特に、景気変動などファンダメンタルズの変化に起因する価格変化は、時間をかけて緩やかに起こる場合が多いので、その変化の端緒に気付くには、需給の変化に着目しているテクニカル分析が有効とも言えます。

また、価格が平均を超える幅で上昇・下降したとき、価格推移の基調が変化したのか、あるいは、日々の雑音的変動の範囲内なのか見分けるのは難しいです。

このようなとき、テクニカル分析は元の基調に戻ることを期待してよいのか、あるいは、期待薄なのか示唆してくれます。

数学的に出される答えなので、勘や感情が排除されている点も特徴であり、ロスカット(損切り)などリスク管理に利用されることも多いです。

テクニカル分析には、以下のようなものがあります。

①トレンド分析:価格がしばらくの間、上昇・下降・横ばいなど一定の方向に推移することを「トレンドがある」と言いますが、価格推移にトレンドが発生しているか否か、または、これまで続いていたトレンドが消滅したかを知るための手法➡代表的なものとして「移動平均」、さらにそれを応用したものとして「バンド」があります。

②パターン分析:パターンには、期間や形状によって、いろいろな種類があります。かつては分析者の主観が強い手法でしたが、コンピューターにパターンを認識させる技術が進歩しつつあります。

③サイクル分析:周期的な価格推移を見出し、その特性を調べる分析手法です。➡例えば、日経225先物(ラージ)の特別清算値(SQ)が算出される3、6、9、12月の第2金曜日には、SQを意識して価格が動く場合あります。また、機関投資家の決算期末には、保有資産が財務諸表に反映されるため、ポジション調整の売買が起こり、価格が変動しやすいと言えます。

④オシレーター分析:日々の雑音的な変動の中から大勢転換の決定的な転換点を探るために考案された手法です。➡相場では、妥当な水準を大きく上回って上昇したり、下回って下降することは珍しくありません。オシレーターは、こうした買われ過ぎや売られ過ぎも検知します。

⑤出来高分析:市場で売買が成立した数量の推移から、需要と供給の変化を認識して、投資家の関心の変化を知ろうとする手法です。

⑥市場趨勢分析:高値・安値を更新した銘柄の割合や、出来高が高水準にある銘柄の割合などの推移を見て、市場全体を取り悪環境の好悪を把握する手法です。

2.ファンダメンタルズ分析

ファンダメンタルズは、経済の基礎的条件の総称です。

これに対し、ファンダメンタルズ分析は、企業など投資対象の本質的価値を概算で求め、株価など市場価格と比べて割高・割安を判断する手法です。

企業の本質的価値を求めるには、DCF法を用いることが多いです。

まず財務予測に基づいて予測されるキャッシュフローを資本コストで現在価値に割り引いて計算します。

これに事業外資産(遊休資産)の処分価値を見積もって加算し、有利子負債を控除し、一株当たりに換算して妥当な価格を求めます。

市場価格は、妥当な価格から乖離しても、いずれ妥当な価格に収束していくと予想されます。

したがって、市場価格<妥当な価格なら、市場価格で買い、妥当価格に接近したときに売れば、儲かります。

逆に、市場価格>妥当な価格なら、市場価格で空売りして、将来値下がりしたところで買い戻せば、儲かります。

とても論理的ですが、将来のキャッシュフローは将来の企業業績に比例し、将来の景気・金利・為替レートなどの影響を大きく受けます。

不確定要因が多いので、信頼性の高い予測を立てるのは難しいです。

もっとも、現在価値や近未来価値の試算であれば、ファンダメンタルズ分析の信頼性は比較的高いと期待されます。

そこで、相対的に割安な株を選別するために各種の指標が利用されている。

例えば、①株価収益率(PER)、②株価純資産倍率(PBR)、③自己資本利益率(ROE)などの指標がよく用いられます。

①=株価÷一株当たり純利益、②=株価÷一株当たり純資産額、③=純利益÷自己資本

ファンダメンタル分析では、いつ買うべきか、売るべきかの情報は得られません。

また、財務データに基づく試算なので、決算発表まで数値が更新されません。

一方、テクニカル分析では、投資タイミングは分かるものの、企業価値に比べてどうなのかは分かりません。

そこで、ファンダメンタル分析とテクニカル分析を組み合わせる折衷案が生まれます。

具体的には、ファンダメンタル分析で割安株を抽出し、テクニカル分析で投資に適したタイミングを判別します。

または、ファンダメンタル分析で買い建てた銘柄の値動きをテクニカル分析で監視し、異常な値下がりがあった場合に損切りするなど、リスク管理の手段としても利用できます。

3.ランダムウォーク仮説

ランダムウォーク仮設は、価格がランダムに推移するという学説です。

ただし、業績の持続的変化や景気変動に伴う長期的な価格変動を否定するものではありません。

否定しているのは、数日から数週間程度の短期的トレンドです。

1)フレデリック・マコーレー

1925年に、コインを投げて表が出れば1を加算、裏が出れば1を減算して累計すると、株価チャートに極めてよく似た推移になると示しました。

2)モーリス・ケンドール

1953年に、価格変化の分布が釣鐘型をしており、正規分布であると発表しました。これは価格変化がランダムであることを示唆しています。

3)ポール・サミュエルソン

市場のランダム特性について研究し、経済指標の変動がブラウン運動に似たランダムな動きであるとして「経済的ブラウン運動」説を提唱しました。

4)ジェームズ・ローリーとローレンス・フィッシャー

猿がダーツが投げて銘柄を選んでも年平均9%のリターンを達成したと発表しました。この発表によって、ランダムウォーク研究が加速しました。

4.効率的市場仮説

効率的市場仮説とは、いかなる情報や技術を用いていも市場平均を上回る収益を上げられないとする学説です。

長期に渡る株価の変化や、米国の投資信託の運用成績などと株価指数の騰落を比較した研究結果を根拠に、1970~80年代に広く支持を集めた。

まず、価格に影響のある情報が瞬時に市場に伝わり、価格に織り込まれてしまうという前提に立ちます。

個々の市場参加者が非合理的な行動を採ったとしても、プロの投資家が格好の裁定機会とするため、生じた価格の歪みは放置されないと言うのです。

このような世界では、優れたアナリストや投資家であっても、市場平均を上回る収益を継続して上げることはできません。

つまり、ファンドマネージャーが積極的に運用するアクティブ運用で情報収集や銘柄選択にかかる費用は無駄であり、指数などに連動するパッシブ運用の方が効率的となります。

こうした論理で、株価指数の構成銘柄で組成されたインデックスファンドが発表されました。

1)ユージン・ファーマ

1960年代に、利用できる情報がすべて価格に織り込まれた市場を効率的市場と呼び、効率的市場では、競合するたくさんの参加者によって価格が本質的価値の周囲をランダムに変動すると考えました。

2)ハリー・ロバーツ

1967年、市場の効率性を➊ウィーク・フォーム、➋セミストロング・フォーム、❸ストロング・フォームの3つに分類しました。

❶は、過去の情報がすべて価格に織り込まれている市場です。

そこでは、過去の動きに関するデータを使って市場に打ち勝つことはできないとされます。

つまり、テクニカル分析は有効性を持たないことになります。

当時の経済学者の間では、少なくとも❶は成立していると考えられていたそうです。

❷は、過去の情報に加え、公開されている情報(企業の財務情報や業績予想など)は、すべて価格に織り込まれている市場です。

そこでは、一般に公開された情報を使って市場に打ち勝つことはできないとされます。

つまり、テクニカル分析に加えてファンダメンタルズ分析も有効性を持たないことになります。

❸は、完全な市場です。

そこでは、未公開情報を入手できる投資家でさえ、市場に打ち勝つことが期待できないとされます。

3)マイケル・ジェンセン

多数の投資信託の運用成績を調べ、リスク調整後のリターンが市場平均を大きく下回っていることを発見し、1969年に発表しました。

業界に幅広い人脈と情報網を持つ優秀なアナリストが市場平均に勝てていないことから、前記ストロング・フォーム(完全な市場)が成立しているとしました。

さらに、株式分割前後の株価変動を精査し、分割情報が公表よりもかなり前から察知されていることを突き止め、上記結論の証拠を増強しました。

4)バートン・キール

1973年に同氏が出版した『ウォール街のランダムウォーカー』が人気を博し、効率的市場仮説は広く信じられるようになりました。

時代背景として、1960年第末期に、それまで好調だった投資信託の成績が低迷し、それまでの好成績は単に高いリスクを取っていただけにすぎないと考えられるようになりました。

そして、1970年代、機関投資家など大口投資家を対象に、S&P500の構成銘柄をすべて組み入れるファンドが形成されるようになっていました。

5)バンガード社

積極的な運用をしない個人投資家向けのインデックスファンドを組成・販売し、効率的市場仮説は全盛期を迎えました。

しかし、他方で、1970年代以降、効率的市場仮説に対して、様々な反論が出されるようになりました。

1)ロバート・シラー

1970年代、株価は将来の配当の割引現在価値に等しいとされていました。

しかし、同氏がS&P500の変動と構成銘柄の配当の比較分析をしたところ、株価の変動率は配当の変動率よりはるかに大きいことが明らかになりました。

つまり、株価は論理的価値から乖離していたのです。

2)様々なアノマリー(因果関係の分からない経験則)の存在の判明

1980年代になると、➀1月株効果(毎年1月に株価上昇率が大きくなる)、②割安株効果(PER(株価収益率)の低い銘柄に投資する方が高い銘柄に投資するよりも収益率が高い)、③小型株効果(小型株に投資する方が大型株よりも収益率が高い)などの存在が明らかになりました。

3)ウォーレン・バフェット

同じ頃、相場の上げ下げに関係なく収益を上げている投資家の存在も判明し、効率的市場仮説の反証として注目されました。

4)ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキー

1974年、両人は、人は常に統計的計算をしているのではなく、手軽な方法や経験則に従っており、うまくいくときもあれば、失敗するときもあると指摘しました。

そして、1979年、プロスペクト理論を発表し、人は常に合理的に行動するという効率的市場仮説の前提を否定しました。

5)ジョセフ・スティグリッツら

市場が十分に効率的で、全ての情報が価格に反映されているのであれば、金融情報を扱う産業は成立し得ないことに気付き、ストロング・フォームの効率的市場仮説が成立しないことを論証しました。

6)その後の展開

1990年代に入って、行動ファイナンスの研究が進み、理解と支持が広がり始めると、効率的市場仮説は徐々に支持を失っていきました。

そして、2002年にカーネマンがノーベル経済学賞を受賞すると、効率的市場仮説の劣勢は決定的となりました。

7)反論のまとめ

効率的市場仮説どおりに、全ての投資家が合理的に判断し行動するのであれば、投資判断は同じになるはずです。

しかし、取引は売りと買いの対立する注文が揃って初めて成立します。

市場で日々大量の売買が成立していることは、市場が効率的でない証拠と言えるのではないでしょうか。

また、投資家が常に合理的に行動するのであれば、バブルや暴落は起こらないはずです。

しかし、実際には、これらが繰り返し起こることも、市場が効率的でない証拠でしょう。

この記事を書いた人

seiji

Seiji

経済学部で学んだ知識を使って会計関係の仕事に従事。仕事の関係で始めたゴルフに15年間取り組むも、思うように上達せず。50歳の誕生日を機に、好きなゴルフを中心にした人生を再構築することを決意し、妻の彩子と二人で生活の見直しを図る。会計の仕事を徐々に減らしつつ、投資家ゴルファーへの転身を目指して、日々奮闘中。ゴルフの目標は、3年以内にシングルプレイヤーとなること。現在のベストスコアは、86。