「愛とは、怖れをたばなすこと」(ジェラルド・G・ジャンポルスキー著)(後編)

先日著者ジャンポルスキー氏について記したところで終わってしまった書評の後編です。この本を読んでから、私は他人の話を聞くときの自分の聴き方が変わりました。そして、それはより良い人間関係の構築に寄与してくれているような気がしています。今日は、その辺りについても触れたいと思います。(以下要約です。)

現実とは何か

私たちは、他人や世間から何を「手に入れる」ことを望んで、思うとおりにならないとそのストレスから欲求不満、うつ病、肉体的な病気、死という形で現れることがあります。ほとんどの人はこのストレスを無くしたいと思いながら、自分に対するこれまでの古い見方を変えようとせず、頑なに古い考え方にしがみつきます。今と違う世界を見るためには、自らの古い考え方を変え、過去を捨て去り、心の中の怖れを消滅することが必要です。

私たちは自分の外の世界の出来事が自分の内面に影響していると考えがちですが、実はそれは逆です。

私たちが経験することの正体は、「世界」というスクリーンに映し出された自分の心の状態なのです。私たちが現実として理解しているのは、私たちの過去の歪んだ記憶というフィルターを付けて断片的に見ている現在に過ぎないのです。自分を環境の犠牲者とみなして、現実も他人も思う通りにはならないと嘆いているのです。

しかし、私たちは、その気になれば、積極的に想像力を磨いて、古い歪んだ記憶を消し去ることもできるのです。そのために必要なのは、罪悪感と怖れに対する過去の執着を捨て、愛を選ぶことです。

愛は何かを比較したり、測ったりしている状態ではなく、豊かさを増しながら溢れ出している状態です。私たちはほんとうは愛を求めているのに、無意識のうちに愛を怖れ、目も耳も閉ざして、愛など存在しないように振る舞います。

私たちは自分自身の現実を選ぶことができます。自分の現実における真実を愛として経験する、つまり、怖れに満ちた過去の記憶からではなく、心の安らぎを得ることをただ一つの目標にして現実を見ると明晰な心の状態が訪れ、内なる安らぎと愛以外の現実は存在しないことを悟るようになります。

そして、心の安らぎをただ一つの目標にすると、唯一の手段となるのは「ゆるし」です。ゆるすことは手放すことです。自分自身のことを考える時に損得勘定ではなく、自分の心を満たすにはという観点から考えます。ここでは、他者を見る時に、「愛を差し出している人」として、あるいは、「怖れにしなまれていて、愛という形の助けを求めている存在」としてみることを選択します。この選択をすると相手を批判することなく受け入れられるようになります。相手に変化してもらわなくても、私たちは心の安らぎを得ることができるのです。

自己変容とは何か

人はその人の信じるものでつくられています。そして、何を信じるかは、過去の経験に左右され、それは現在も繰り返されて、未来も過去の繰り返しになるだろうという予測を生みます。私たちの現在は、この過去の古い考え方に強く影響されており、目の前の現実を歪めたり、無意識のうちに限界を設けています。

しかし、私たちは改めて自分が誰なのかを見直すことにより、また強く望むことにより、本来の自分をより新しく、深く感じながら、今というときの中で生きることが選ぶこともできるのです。

この過去の古い記憶からの怖れと同時に愛を体験することはできません。常に愛を選ぶという選択を続けることで、私たちは人とのかかわりの性質や本質を変えることができるのです!

自分を攻撃してくる相手に対して反撃しても、問題は解決しません。攻撃はつねに怖れと罪悪感から生じるものであることを知り、攻撃は実は防御であるということを知るべきです。すなわち、相手は何らかの脅威を感じ、自分の強さを思い知らせたい気持ちで攻撃という行為に出ているのです。そんな相手を自分に攻撃してくるとみるのではなく、怖れを感じているのだとみることで、その怖れの正体は救いを求める声であり、自分の心の安らぎを求めるにはどのように考えればよいか、そしてその考え方を決める権利は自分にあるのだと自覚すればよいということに気が付きます。

内なるやすらぎは、ゆるし、過去を手放すこと、を実践したときにしか得られません。

ゆるしとはつまり、誤ったものの見方を修正する手段となるもので、その見方を修正するのは今しかありません。その唯一の方法は、他人が自分にした、あるいは自分が他人にしたと思っていることをすべて手放すことです。手放すということは、自らの選択で「忘れる」というプロセスを通して、過去を再現する必要がなくなり、現在を心から受け止めることができるようになるのです。これにより、自分自身と他者を愛をもって見られるようになります。

癒しは、私たちは一体だという思いから生まれるものであり、内なるやすらぎをただ一つの目標にすると、ゆるしがただ一つの手段になります。これにより、自分の内にある直観のこえが目標実現のただ一つの道しるべであることに気が付きます。

これにより、私たちは歪められたものの見方という牢獄から他者を解放するとともに、実は自分自身をも解放し、愛という絆で他者と結ばれることになるのです。

ひとつ覚えておきたいのは、他人から何を得るべきだという考え方は、条件付きの愛を招き、葛藤と苦悩という結末に至り、過去・現在・未来という直線的な時間の概念に捕らわれることになります。実は、私たちは今自分に必要なものはすべて自分の中にもっているのです。そして、私たちの本質は愛という存在なのです。

したがって、私たちが与えることに専念し、相手から得ようとか、相手を変えようという思いを捨てたときに、心のやすらぎを得ることになります。そして、それはまた、「与える」という動機に導かれた、時間とはかかわりのない、内なるやすらぎと喜びの感覚に境地に達するのです。

自分や他人を枠にはめるような言葉、他人を値踏み、評価、自分や他人を裁いたり、避難したりするような言葉を使うこともやめましょう。たとえば、「不可能」、「できない」、「~さえ~だったら」、「そうはいっても」、「~する義務がある」。「~かどうかは疑わしい」などです。

自己変容のレッスン

本書には、怖れを手放し、うちなるやすらぎを手にするための方法が示されています。自分と他者をゆるし、だれも非難されることなど何もない人として見られるようになると、内なるやすらぎが訪れます。今生きている瞬間のすべてが、過去の記憶や未来への予測から無意味な干渉を受けずに、新たな気づきを得て生まれ変わるチャンスに満ちた「今」だと考えれば、私たちは自由に、本来もっている愛する気持ちを差し出すことができるようになるのです。

これを具体的に訓練する方法として、朝晩リラックスした状態で、想像力を使って12のレッスンを繰り返すことで、本書の内容を実践することができます。レッスンのタイトルを幾つかここに引用します。

レッスン1 私が与えるものはすべて、私自身に与えている

レッスン2 ゆるしは幸せにいたる鍵である

レッスン3 私の心の動揺は私が考える理由によるものではない

レッスン4 私はものごとを違った目で見ると心に決めている

このレッスンに従って、本書の内容を繰り返し自分の中に落とし込むことで、自分も他人もゆるし、過去の記憶から自由に今を生きる、自分の本質が愛であるということを認識しながら心にやすらぎをもって生きるというという現実に到達できるのだと思います。とても素晴らしい本でした。

私の実践体験談

私には、北関東で一人暮らし(同じ敷地内に私の家もありますが、ほとんどは在京しており、実質的な一人暮らしという意味です)をする80歳を超えた母がいます。母は、かつては、私の顔を見るたびに近所に人の愚痴や自分の抱える問題を一方的に私に話して来ることがありました。

そんな時、私がいつも母にしていたことは2つでした。一つは、愚痴は自分の悪口で他人の悪口同様、自分を傷つけるだけだから言わない方がいいと黙らせること、もう一つは、母の問題を聞く側から解決する方法を提案していました。私は、それで母の不満が解消されることを期待したのですが、母はますますヒートアップして、毎回同じような話を繰り返ししてきました。閉口した私は、北関東の自宅に戻る回数をできるだけ減らすように努力するようになりました。

しかし、この本を読ん気づいたことがありました。私は母の話を聞きながら、頭の中で、解決策を考えていたのです。私は問題を解決するようにしながら、母を変えようとしていたのです。過去の記憶で判断していて、目の前の母の気持ちは全く意に介していませんでした。

それ以降、私は母が近所に人の悪口を言っても何も言わなくなりました。肯定も否定もせずに、ただ聞くようにしました。また、解決する問題があるときは、母がどうしようとしているのか聞くようにして、その後で私が手伝える方法を提案するようにして、聞きながら解決策を考えるということは努めてしないようにしました。

するとどうでしょうか。母は、他人の悪口も愚痴も言わなくなり、むしろ他人の良い点を褒めるようになってきました。そして、それが円滑なコミュニケーションに発展し、近所づきあいも楽しくなってきたようです。問題があっても、先ずは自分で解決するようになり、経過を報告して、必要な助けを私に求めてくるようになりました。私は、先ずは、ただ母の話を聞くだけなのです。

このように、私は自分がそれまで自分自身をゆるしていなかったことを自覚しました。そして、身近な家族に対しても私の期待どおりに行動してほしいと思ってきたことにも気が付きました。それを止めて、心のやすらぎを求める選択をするようになってからは、自分の心も家族との関係もより穏やかで心安らぐものに変わってきています。

直ぐにこの本にあるように変わることは難しいのかもしれませんが、少しでも変化していけば、自分の心が穏やかになり、毎日が落ち着いて送れるような気がしています。これからも、自分の心を磨きながら、いろいろなことにチャレンジしていきたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

この記事を書いた人

saiko

Saiko

アメリカ留学を経て、予備校や学習塾での英語教育に携わること約10年。在職中に英検1級を取得。TOIEC985点。法律関係に転職し、夫婦で同業、共働きしながら現在に至る。留学や受験時代の体験から人の潜在意識や潜在能力に関心を抱く。夫の星二の50歳の誕生日を機に、星二の夢である「ゴルフでシングルに」に一緒にチャレンジするべくゴルフを習い始める。3年で100切りを目指して、趣味の英語と旅行も織り交ぜながら、星二と一緒にゴルフの上達を目指す。楽しく上達がモットー。現在のベストスコアは、117。