英語学習者にとって、難しいのは自分の思いや判断を、正確に相手に伝えることではないでしょうか?
そして、その判断内容の微妙なところを表現するのが、実は助動詞の役割でもあります。
ここでは、現在の「助動詞」の成り立ちを歴史をさかのぼって探究します。
これをきっかけに、一般に難解とされる助動詞の使い方についての理解と親しみがアップしたら幸いです。
英語の歴史的背景
英語の助動詞と広く括られますが、実は、英語の助動詞には2種類あります。
それは、法助動詞(modal auxiliary verb)と一般の助動詞(auxiliary verb)です。
日本人が一般に、「助動詞」として意識しているのは、実は「法助動詞」の方です。
この区別については、別な記事でも説明をしておりますので、宜しければご覧ください。
助動詞の起源と進化について理解には、まず英語自体の歴史的な背景を知ることが重要です。
英語はゲルマン語系の言語で、いくつかの時期を経て、その形が大きく変わってきました。
それらの時期は、一般的に次の3つに大きく分類されます。
- 古英語(5世紀から12世紀)
- 中英語(12世紀から15世紀)
- 近代英語(15世紀から現代)
では、それぞれの時期の特徴を概観していきましょう。
古英語(5世紀から12世紀)
助動詞の起源は、古英語にさかのぼります。
古英語は、複雑な屈折形を持つ言語でした。
「屈折」というのは、語形の一部を変えたり、接尾辞を加えたりして、その語の文法的な意味・役割関係を示すことを指します。
この頃の動詞は、人称、数、時制、語気(能動・受動)によって変化(屈折)しました。
そのため、当時は、今日のような助動詞が必要なかったかもしれません。
しかし、古英語の一部の動詞は、意味的には本動詞とともに使われ、助動詞としての役割を果たすようになりました。
その例は、「willan」(意志を表す)、「sculan」(必要性や義務を表す)、「magan」(可能性を表す)などです。
これらは、元は動詞でした。
しかし、古英語の時代に、本動詞に一定の意味を添える働きをするようになったのです。
中英語(12世紀から15世紀)
中英語時代になると、英語の屈折形が大幅に簡略化されました。
この時期に、助動詞がより重要な役割を果たすようになりました。
例えば、「can」、「may」、「will」、「shall」、「must」などの動詞が、主要な助動詞として使われるようになりました。
これらの助動詞は、主動詞の意味を補うだけでなく、時制、態、相を表す役割も果たしました。
時制・態・相とは(補足)
ここで、助動詞の担う役割について、補助的な用語の説明をします。
時制(Tense)とは、動詞が表現する行為や状態が過去、現在、未来のどの時間に位置するかを示します。
態(Voice)とは、行為の主体と行為自体の関係を示したものです。
態には、主に能動態と受動態(受身)があります。
相 (Aspect)は、動作や状態の進行性や完了性を示すものです。
英語には進行形と完了形の相が存在します。
近代英語(15世紀から現代)
これらの変化は、英語の文法体系が時間とともに進化したことにより、発生したものです。
そして、その進化により、英語という言語において、より明確で複雑な表現が可能になったと言うことを示しています。
法助動詞(modal auxiliary verb)は、特定のモーダリティ(必要性、可能性、意志など)を表現するために、
特化して進化してきました。
それに対して、一般の助動詞(auxiliary verb)は、動詞の形を作ったり、否定や疑問を作ったりするために、
発展しました。
近代英語時代以降の助動詞の発達
近代英語時代になると、助動詞の使用がさらに洗練され、その機能と種類が増えました。
特に、「have」、「be」、「do」などの動詞が助動詞として使われるようになりました。
それらは、完了形や進行形、否定形や疑問形を作るために重要な役割を果たしました。
ただ、日本における英語教育の現場においては、私の経験上、これらが「助動詞」であるという明確な指摘はないように思います。
助動詞としての「have」
古英語では、「have」 は所持を示す本動詞でした。
それは、現在でも一般動詞として存在しています。
しかし、中英語時代には、それ以外の完了を示す助動詞としての使われ方も、既に見受けられます。
近代英語になると、「have+過去分詞」で、完了形を示す助動詞としての用法が一般化しました。
助動詞としての「be」
「be」 は、古英語から存在を示す本動詞として使われていました。
しかし、受動態や進行形を作る助動詞としての使用は中英語時代に確立したようです。
近代英語になると、それがさらに一般化しました。
助動詞としての「do」
「do」 は、中英語期の終わり頃から、助動詞としての使用(一般動詞の疑問文や否定文を作成する際に用いられる)が、見られます。
しかし、この用法は16世紀頃まで一般的ではありませんでした。
近代英語時代に入ると、「do」 の助動詞としての使用が一般化しました。
まとめ
このように、助動詞のうち、法助動詞に分類されるものには、元来、動詞としての固有の意味が存在していたわけです。
その元来の意味から、さまざまな意味が今日の法助動詞に生きていると言えます。
そう考えると、英語の助動詞のさまざまな意味も難しいというより、面白くなるのではないでしょうか?
日本語でもそうですが、微妙なニュアンスの使い分けを可能にするのが、法助動詞の使い分けということです。
英語で会話をしていて、こんな表情が相手から返ってきたら、どうでしょうか?
もしかたら、法助動詞の使い方を間違えていたのかも・・・・?!
助動詞の例ではありませんが、私にはそんな恥ずかしい体験があります。
小さな男の子の兄弟のベビーシッターのバイトをしていた時のことでした。
その兄弟はとても闊達で、裏庭で見つけた木片をカッターで切ろうとしていました。
I hope I won’t cut my finger. (指切らないようにしないとね。気をつけよう。)
男の子がポツリと小声で言いました。
それを聞いて、私も「うん、気をつけてね。指切らないように。」というつもりで
ひとこと、彼に向かって言いました。
I hope so.
すると、彼は、ギョッとした顔で私を見て、こう尋ねてきました。
Do you want me to cut my finger? (僕が指を切ればいいと思っているの?)
その瞬間、私は、英語のhope that ~ not の使い方を理解しました。
つまり、I hope (that) you won’t cut your finger, too. (私も、君が指を切らないことを祈るよ。)と言うには、
I hope not.
としなくてはならないのでした!
ここで、「not」と「so」の一言の違いが大きな意味を違いを生むのだという大きな気づきでした。
助動詞の場合にも、その選択によって、時には文の意味合いを大きく変えるパワーがあります。
そう言う意味では、使い方次第で、細かいニュアンスも表現できるので、面白いと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。