1.歴史と基本
どのトレンドでも(上昇・下降・横ばい)、価格は上下動を繰り返しながら、推移します。
この時、価格の推移の上限(下限)の目途が分かれば便利です。
そのために、チャネルラインというものがあります。
上昇(下降)トレンドラインと平行な斜めの直線を節目となる安値(高値)を起点として引いた線です。
ここで、トレンドラインは起点や通過点の選び方次第で、いろいろな線が引けてしまいます。
そうすると、トレンドラインと平行に引くチャネルラインもいろいろ引けてしまいます。
これでは主観が入り、よろしくないという批判もあります。
もっと客観的に高値や安値の目途が描けないかということです。
そこで、機械的に計算させる移動平均や移動回帰を使って、高値と安値の目途を計る手法が考案されました。
それがバンドです。
もっとも古いバンドは、1960年に商品先物トレーダーであったチェスター・ケルトナーが発表したケルトナーチャネル(その中身は後述します。)かもしれません。
代表的なバンドの一つであるエンベロープ(その中身は後述します。)は、いつ考案されたか、はっきりしませんが、その計算式から、少なくも移動平均を元にしていることは確かです。
移動平均を相場分析に使うことを広めたジョセフ・グランビルが本を出版したのが1976年なので、その応用形態であるエンベロープの考案はそれ以降のはずです。
商品先物投資家のリチャード・ドンチャンは、ドンチャンチャネルを考案し、ドンチャンブレークアウトを提唱しました(中身は後述します。)。
このドンチャンの手法を取り入れた投資家集団タートルズが活躍したのが1980年代です。
ジョン・ボリンジャーが、有名なボリンジャーバンド(中身は後述します。)を開発したのが1988年頃です。
その他の統計指標を用いたバンドは1990年代以降に考案されたと考えられます。
2.接近
(1)上昇トレンドで価格が上方バンドに接近した場合
市場が一時的にさらに強気に傾き、価格の上がり過ぎが示唆されます。
上方バンドを跨いだ後の推移は、➊反落に転じる場合と➋上方バンドを押し上げる場合があります。
➊は短期の売りシグナル、➋は買いシグナルとなるので、バンド跨ぎの後の推移は重要です。
(2)上昇トレンドで価格が下方バンドに接近した場合
市場が➊一時的に弱気に傾き過ぎたか、➋天井を付けて本格的に下降に転じたかが考えられます。
➊は短期の買いシグナル、➋は買い玉を手仕舞い、新規売り建てのシグナルとなります。
やはり、バンド跨ぎ後の推移をよく確認する必要があります。
(3)下降トレンドで価格が下方バンドに接近した場合
市場が一時的にさらに弱気に傾き、価格の下がり過ぎが示唆されます。
下方バンドを跨いだ後の推移は、➊反騰に転じる場合と、➋下方バンドを押し下げる場合があります。
➊は短期の買いシグナル、➋は売り継続のシグナルとなるので、バンド跨ぎの後の推移は重要です。
(4)下降トレンドで価格が上方バンドに接近した場合
市場が➊一時的に強気に傾き過ぎたか、➋底入れして本格的に上昇に転じたかが考えられます。
➊は短期の売りシグナル、➋は新規買い参入のシグナルとなります。
やはり、バンド跨ぎ後の推移をよく確認してから、行動を起こす必要があります。
3.突破
(1)上昇トレンドの中で価格が上方バンドを大きく突破した場合
➊一時的に熱狂によって上昇したか、➋上昇ペースを加速する局面に入ったか、2通りが考えられます。
➊なら、すぐに反落に転じる可能性が高いので、短期の空売りのシグナルとなります。
➋なら、逆に、買い継続もしくは買い乗せのシグナルとなります。
(2)上昇トレンドの中で価格が下方バンドを大きく割り込んだ場合
➊高値警戒感から一時的に下落したか、➋天井を付けて本格的な下降局面に入ったか、2通りが考えられます。
➊なら、すぐに反発する可能性が高いので、短期の買いシグナルになります。
➋なら、買い玉を解消し、新規の空売り参入の検討も必要になります。
(3)下降トレンドの中で価格が下方バンドを大きく割り込んだ場合
➊一時的な恐怖によって下降したか、➋下降ペースを加速する局面に入ったか、2通りが考えられます。
➊なら、トレードしない方がよさそうです。
➋なら、売り継続もしくは売り乗せのシグナルになります。
(4)下降トレンドの中で価格が上方バンドを大きく突破した場合
総悲観の中で一時的な熱狂が生じるとは考えにくいです。
そうすると、相場が底入れして上昇基調に転じたことが期待されます。
そう考えるなら、売り玉を解消し、新規の買い参入を検討するのがよさそうです。
留意点
(1)順張りか逆張りか
バンドを利用する場合、課題となるのが、順張りと逆張り、どちらの指標として利用するかです。
まず、1⃣それまでのトレンドと異なる大きなトレンドが始まった場合、どうなるでしょうか。
➊価格は一方のバンドを連続して突破したり、➋張り付いたりしたまま推移しがちです。
➊➋のようなときは、バンドを順張り指標として利用するのが望ましいと言えます。
次に、2⃣大きなトレンドの中で小動きを繰り返している場合は、どうでしょうか。
❸上方バンドは抵抗帯、下方バンドは支持帯として、バンド近辺で反転を繰り返しがちです。
❸のようなときは、バンドを逆張り指標として利用した方がよいと言えます。
1⃣と2⃣で売買シグナルとしては正反対となるので、見極めを間違えると、大失敗に繋がります。
そこで、他のテクニカル分析を併用して、相互に売買シグナルを比較する必要があります。
見極めの間違いを減らす工夫が必要になるということです。
(2)克服法
バンドを、順張りと逆張り、どちらの指標として利用するか。
それを判断する上でのポイントは二つです。
ズバリ、ⒶトレンドとⒷボラティリティです!!
Ⓐの方向は、中心線の方向、Ⓐの強弱は、中心線の角度で判断できます。
Ⓐの方向と強弱は、他のトレンド分析を併用して相互に確認指標とすることができます。
Ⓑの変化は、バンド幅の拡大や縮小から知ることができます。
したがって、複数のバンドを併用して、相互にシグナルを確認することも考えられます。
その他、Ⓐが既に転換したのか、近い将来、転換しそうかについて、オシレーター分析や出来高分析などで知ることもできます。
このように、テクニカル分析では、分析の種類によって、得手不得手があります。
そこで、用途によって組み合わせ、欠点を克服することを考えます。
5.バンドの種類
今回、取り上げるバンドは4種類です。
(1)エンベロープ
(2)ケルトナーチャネル
(3)ボリンジャーバンド
(4)ドンチャンチャネル
以下、順に見ていきましょう。
(1)エンベロープ
作者不明です。
前にも述べましたが、ジョセフ・グランビルが1976年に出した本で取り上げたのをきっかけに普及しました。
エンベロープとは、「封筒」「航空機の安全航行領域」といった意味です。
移動平均を中心に上下に一定割合で乖離させた線を引き、
原則として、その幅の中を価格が移動していくというイメージです。
計算期間をn、移動平均に対する乖離率をmとした場合、計算式は次の➊~❺のようになります。
➊上方バンド(外側)=n期間の移動平均×(1+m×2÷100)
➋上方バンド(内側)=n期間の移動平均×(1+m÷100)
❸中心線=n期間の移動平均
➍上方バンド(内側)=n期間の移動平均×(1ーm÷100)
❺下方バンド(外側)=n期間の移動平均×(1ーm×2÷100)
中心線となる移動平均は、単純移動平均(SMA)を使用することが多いと言われてはいます。
ただ、MACDの考案者であるジェラルド・アペルのように、指数平滑移動平均(EMA)を利用する人もいます。
なので、特に決まりはないようです。
移動平均に対するバンドの乖離率(m)は、分析対象によって異なります。
ジェラルド・アペルは、上方バンド(外側)と下方バンド(外側)の間に、価格の85%~90%が収まるようにすべきと述べています。
(2)ケルトナーチャネル
前にも述べましたが、1960年に、商品先物トレーダーのチェスター・ケルトナーが発表したバンドです。
中心線に、高値・安値・終値を3で割ったティピカル値(TP)の移動平均を用いるのが第一の特徴です。
そして、バンドの作成に、パーセンテージや標準偏差ではなく、ATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)を用いるのが第二の特徴です。
計算式は、次の➊~❻のようになります。
➊TP=(高値+安値+終値)÷3
➋TR=ⓐⓑⓒの最大値…ⓐ当日高値ー当日安値、ⓑ当日高値ー前日終値、ⓒ前日終値ー当日安値
❸ATR=TRのn期間移動平均…指数平滑移動平均(EMA)を用いることが多いです。
➍上方バンド=中心線+m×ATR…乗数のmは2倍を用いることが多いです。
❺中心線=TPのn期間移動平均
❻下方バンド=中心線ーm×ATR
一説によると、ケルトナーチャネルは、バンド接近による逆張りトレードより、バンド突破による順張りトレードで効果がありそうとのことです(スチュアート・エヴァンス)。
(3)ボリンジャーバンド
前に述べましたが、ジョン・ボリンジャーが1988年頃に開発したバンドです。
今日では、超有名なバンドです。
ティピカル値(TP)の単純移動平均を中心線に標準偏差=σ(シグマ)を加減して上下に描画したものです。
前にも述べましたが、TP=(高値+安値+終値)÷3です。
簡便法として、TPの代わりに終値を使うこともあります。
σは、統計的にデータが散らばる範囲を示す計算値で、データが正規分布するのであれば、
データの68.3%が平均±1σに、95.4%が平均±2σに、99.7%が平均±3σに収まります。
正規分布は、その中身は複雑過ぎるので、統計学的に左右対称に連続する分布としておきましょう。
計算期間n(デフォルトは20)におけるTPの標準偏差をσとし、σの係数をm(デフォルトは2)とすると、計算式は次の➊~❺のようになります。
➊上方バンド(外側)=中心線+m×σ
➋上方バンド(内側)=中心線+σ
❸中心線=TPのn期間SMA(単純移動平均)
➍下方バンド(内側)=中心線ーσ
❺下方バンド(外側)=中心線ーm×σ
EXCELで計算する場合には、「=STDEV.P(TPの開始セル番地:終了セル番地)とします。
価格が±2σの範囲に収まると考えて、価格のバンドへの到達を逆張り指標として利用する方も多いと思います。
しかし、開発者のジョン・ボリンジャーは、これをトレンド発生と捉え、順張り指標として利用することを推奨しています。
ボリンジャーバンドにはバンド幅(BBW)というものがあります。
計算式は、BBW=(上方バンドー下方バンド)÷中心線=2×m×σ÷中心線 です。
BBWが縮小している状態を「スクイーズ」、逆に、拡大することを「エクスパンジョン」と呼びます。
また、スクイーズ後に相場が一時トレンドと逆方向にブレイクアウトすることを「ヘッドフェイク」、
相場がバンドに沿って推移することを「バンドウォーク」と呼びます。
具体的には、過去6か月間のBBWの最低値を、スクイーズを示す基準値とします。
BBWがそれに近い値で推移している間は、スクイーズが続いていることになります。
その後、エクスパンジョンとなれば、トレンドの発生を意味し、売買シグナルとなります。
そして、エクスパンジョンがスクイーズに転じたときは、トレンドも天井や谷を付けていることを警戒します。
バンドウォークが続いている間、BBWは高水準に推移します。
スクイーズが始まると、BBWのトレンドの勢いが弱まり、バンドウォークの終了が近づいたと分かります。
(4)ドンチャンチャネル
前にも述べましたが、商品先物投資家のリチャード・ドンチャンが考案し、投資家集団タートルズが取り入れて1980年代に大いに活用したバンドです。
過去一定期間の最高値を結んだ線と最安値を結んだ線です。
計算期間をmとnとすると、計算式は次の➊~➍のようになります。
➊上方バンド(短期)=過去m日間の最高値
➋上方バンド(長期)=過去n日間の最高値
❸下方バンド(短期)=過去m日間の最安値
➍下方バンド(長期)=過去n日間の最安値
ドンチャン自身は、①m=10とn=20、②m=20とn=55という2つの組み合わせを使っていました。
使い方は、価格が上方バンド(長期)を上回ったら、買い参入し、その後、価格が下方バンド(短期)を下回ったら、買い玉を手仕舞います。
反対に、価格が下方バンド(長期)を下回ったら、売り参入し、その後、価格が上方バンド(短期)を上回ったら、売り玉を清算します。
上方バンドと下方バンドの仲値を結んで、支持や抵抗の目安として利用する方法もあります。