1.歴史と基本
オシレーターは、マーケットの勢い・過熱感を数値化して、適切な売買タイミングを探るための指標です。
オシレーターに「振り子」の意味があるように、一定の値を中心値(中心線)に上下に往復するように作られています。
オシレーターを相場に利用するには、日々、数値を更新する必要があり、手計算では煩雑過ぎます。
そのため、相場分析におけるオシレーターの開発・普及は、コンピューターの開発・普及と並行して進みました。
まず、1951年、世界初の商用コンピューター「UNIVAC Ⅰ」が発売されました。
6年後の1957年、相場を分析するオシレーターとしては最古となる「ストキャスティクス」が発表されました。
発表したのは、これを開発したラルフ・ダイスタントのグループの一員だったジョージ・レーンでした。
次に、1976年、米アップル社が世界初のデスクトップPC「AppleⅠ」を発売しました。
すると、翌1977年、ジェラルド・アペルがMACD(Moving Average Convergense Divergense:移動平均収束拡散法)を考案しました。
さらに、翌1978年、J・ウェルス・ワイルダー・ジュニアがRSI(Relative Strength Index:相対力指数)やDMI(Directional Movement Index:方向性指数)など一連の指標を発表しました。
ワイルダーの書籍の日本語版は『ワイルダーのテクニカル分析入門』という題名で、パンローリング㈱から出版されています。
私も、買ってみたところ、コンパクトですが(僅か197頁)、ワークシートの例題がたくさん入っており、読み応えがありました。
ワイルダーは、書籍と同時にプログラム機能付き関数電卓や「AppleⅡ」や「IBM PC」用のプログラムも発売して、当時、好評を得たとのことです。
1995年に米マイクロソフト社がWindows95を発表すると、PCとインターネットの普及が加速しました。
同時に、同社が発売したOffice95に含まれていた表計算ソフトExcelが職場や家庭に広く普及しました。
関数が豊富なExcelの登場によって、必ずしもプログラムを自作する必要がなくなり、一般の個人投資家にとっても、テクニカル分析が一気に身近なものとなりました。
オシレーターには、ストキャスティクスやRSI、DMIのように、上限値と下限値があって、一定範囲内で往復するものと、MACDのように、上限値や下限値を持たずに往復運動するものがあります。
前者を(狭義の)オシレーター指標、後者をモメンタム指標と呼んだりします。
2.接近
価格が中心値から離れるものの離れたままにならず、また中心値に戻ることを「回帰」といいます。
オシレーターは、価格が持つ「回帰」の性質を前提として、上方への乖離が大きくなれば、反落が近く、下方への乖離が大きくなれば、反発が近いと判断します。
乖離が大きいかどうか、判断するための目安は、次のようになります。
狭義のオシレーター指標の場合:理論的な上限値と下限値を設定できます。
モメンタム指標の場合:過去に反転した乖離幅の平均値を経験的な上限域・下限域とする。
オシレーターが理論的な上限値(上限域)や経験的な下限値(下限域)に接近した場合は、買われ過ぎ(売られ過ぎ)のシグナルと判断します。
通常は基準値を設け、基準値を上回れば、買われ過ぎ、下回れば、売られ過ぎのシグナルとして扱います。
順張りでは、オシレーターが基準値を上回った(下回った)後、再び基準値を下回った(上回った)時に買い(売り)を手仕舞い(清算し)、新規に売り(買い)建てます。
逆張りでは、買われ過ぎ(売られ過ぎ)シグナルが出た時点で買い(売り)を手仕舞い(清算し)、新規に売り(買い)建てる。
ただし、トレンドが上昇(下降)に転じた直後の場面など、上昇(下降)の勢いが非常に強い場面で、買われ過ぎ(売られ過ぎ)シグナルが出た時の逆張りには注意が必要です。
このような場面では、しばしば、オシレーターが買われ過ぎ(売られ過ぎ)の領域で推移し続けることがあるからです。
また、下降(上昇)トレンドが長く続いた後など、トレンド転換の可能性がある場面で、買われ過ぎ(売られ過ぎ)シグナルが出た時の逆張りにも注意が必要です。
価格が底入れして(天井を付けて)上昇(下降)トレンドに転じる場面では、買われ過ぎ(売られ過ぎ)シグナルが出ることが多いからです。
このように、オシレーターが上限(下限)に接近した場合には、トレンド指標や出来高指標などでトレンドの強さや反落(反騰)となりそうかを確認しながら、順張り投資と逆張り投資のどちらが有利かを判断する必要があります。
3.中心線との交差
オシレーターと中心線の交差に注目して、トレンドを判断することもできます。
オシレーターが中心線を上回る(下回る)タイミングは、トレンドが上昇(下降)に転じるタイミングとしばしば一致するからです。
中心線よりも下(上)に合ったオシレーターが、中心線を上回れば(下回れば)、トレンドが上昇(下降)に転じたと示唆されるので、順張りの買い(売り)シグナルとなります。
上昇(下降)トレンドが続いている場合、オシレーターは中心線よりも上(下)で推移することが多いのです。
したがって、オシレーターが中心線よりも上(下)にあれば強気(弱気)相場と判断します。
また、一時的に中心線を下回った(上回った)ものの、すぐに中心線を上回った(下回った)タイミングを買い(売り)シグナルとする方法もあります。
4.留意点
1)計算期間と判断基準
オシレーターは、Ⓐ計算期間を長くするか短くするかで、指標の推移が全く変わってしまいます。
この問題は、Ⓑ売られ過ぎ・買われ過ぎの判断基準を修正することでも対応できます。
しかし、ⒶとⒷのどちらを修正するのが望ましいかについて、定説はありません。
したがって、分析対象に適したⒶとⒷを予め調べる必要があります。
長期間の推移を見て経験的に決める方法もあれば、バックテストで最適化を図る方法もあります。
2)長所と短所、ダマシの傾向
オシレーターの計算式を詳細に吟味し、何の変化を捉えようとしているのか、使用前に調べておきましょう。
これによって、長所と短所、出現するダマシの傾向が分かる場合があるからです。
類似性が少なく、短所やダマシを補完し合える複数のオシレーターを組み合わせることもできます。
RSIとストキャスティクスは似ているので、これらとは性質の異なるDMIなどを組み合わせるのが良さそうです。
3)トレンドに注意
オシレーターを使うときは、上昇(下降)トレンドが発生しているかに注意する必要があります。
トレンドが発生しているのであれば、順張り指標として使う途を模索した方が良さそうです。
逆に、トレンドが発生していないのであれば、逆張り指標として使うことが考えられます。
4)機能しやすい条件
オシレーター系の指標が有効性を持ちやすいのは、横這いで揉み合うトレンドです。
大勢が横這いの中、価格が大きく上下すれば、オシレーターを用いた逆張りで成果を上げやすくなるでしょう。
もっとも、相場が大きく上下しながら推移するのであれば、上昇(下降)トレンドであっても、オシレーターによる逆張りで稼ぎやすくなりそうです。
逆に、相場が横這いでも、小動きで推移すれば、価格の上下動から得られる利ザヤは薄く、稼ぎにくそうです。
5.様々なオシレーターのご紹介
それでは、ここから先は、様々なオシレーターを具体的に紹介していきます。
取り上げさせていただくのは、⑴ストキャスティクス、⑵RSI、⑶DMIです。
(1)ストキャスティクス
ア.ストキャスティクスの基本型
先ほども述べましたが、ラルフ・ダイスタントのグループが考案し、その一員だったジョージ・レーンが1957年に%Kと%Dを発表しました。
%K=[(当日終値ーn日間の最安値)÷(n日間の最高値ーn日間の最安値)]×100
%D=%Kの3日間の移動平均
計算期間のnは任意ですが、14、9、5などを使うのが一般的です。
ただし、FXTFの小次郎講師の動画では26を推奨しており、私は26を使っています。
1978年に、%Dを、さらに3日移動平均で、より滑らかにしたSlow%Dが、別の研究者によって追加されました。
Slow%D=%Dの3日間の移動平均
ストキャスティクスは2本の線を組み合わせて用いるのが一般的です。
%Kと%Dを使う場合を「スローストキャスティクス」といい、
%DとSlow%Dを使う場合を「ファストストキャスティクス」といいます。
どちらも、20~30%の下方基準線より下にあると、「売られ過ぎ」、
70~80%の上方基準線より上にあると、「買われ過ぎ」と判断します。
また、2本の線のゴールデンクロスとデッドクロスを利用する方法もあります。
さらに、相場の高値(安値)更新時にストキャスティクスが直近高値(安値)を更新しない場合(ダイバージェンス)を下落(上昇)転換の予兆とする方法もあります。
イ.ストキャスティクスの応用型(ウィリアムズの%R)
ウィリアムズの%Rは、ラリー・ウィリアムズが、ストキャスティクスにヒントを得て、1966年から使った指標です(”R”はミドルネームにちなんだそうです。)。
%R=(n日間の最高値ー当日終値)÷(n日間の最高値ーn日間の最安値)×100
期間期間のnは任意ですが、ウィリアムズは10を用いました。
前述のストキャスティクスの%Kが計算期間中の最安値を基準に当日終値が上方に乖離する値幅を測ります。
これに対し、%Rは最高値を基準に当日終値が下方に乖離する値幅を測ります。
そのため、ストキャスティクスとは逆に、%Rが100%の場合、当日終値が計算期間中の安値になり、
%Rが0%の場合、当日終値が計算期間中の高値になります。
ウィリアムズは、%Kと%Dの交差を売買シグナルとすることに懐疑的で、%Rの水準から買われ過ぎ・売られ過ぎを判断することを好みました。
10~20%程度に線を引き、それ以下を買われ過ぎ水準とします。
80~100%に線を引き、これ以上の範囲を売られ過ぎ水準とします。
ただ、この基準線は、分析対象ごとに指標の長期推移を見てから決めた方がよいでしょう。
(2)相対力指数(RSI)
ア.RSIの基本型
先ほども述べたように、相対力指数(Relative Strength Index)は、ワイルダーが1978年に発表した代表的なオシレーターの一つです。
RSIは、0~100%の範囲で推移し、20~30%の位置に下方基準線、70~80%の位置に上方基準線を引きます。
基本的に、指標が下方(上方)基準線を下回れば(上回れば)売られ過ぎ(買われ過ぎ)と判断します。
ワイルダーは、RSIの計算式を次のように設定していました。
RSI=100-[100÷(1+RS)]、RS=終値が前日比で上昇した日の前日比上昇幅の14日平均値÷終値が前日比で下落した日の前日比下落幅の14日平均値
平均値を使ったのは、データ保存量を減らし、計算回数を減らすためです。
手計算をする必要がなくなった現在は、RSIの計算式は、次のようになっています。
RSI=終値が前日比で上昇した日の前日比上昇幅のn日間合計÷終値の前日比変化幅のn日間合計×100
計算期間のnは任意ですが、デフォルトは14日です。
計算期間を短くすれば、RSIは価格の短期上下動を捉え、頻繁に0~100%を往復します。
一方、計算期間を長くすれば、0や100%に接近しにくくなり、50%近辺で推移するようになります。
使い方としては、RSIが上昇(下降)して下方(上方)基準線を上回る(下回る)時に買い(売り)参入し、さらに上昇(下降)して上方(下方)基準線を上回ったら(下回ったら)、買い(売り)を手仕舞うといった戦法が考えられます。
RSIの応用型(ストキャスティクスRSI)
RSIをもとに計算したストキャスティクスがあります(使用するのは%Kに相当するものだけですが)。
1994年にトゥーシャー・シャンデとスタンレー・クロールが発表した指標です。
ストキャスティクスRSI=(直近のRSIーn日間のRSIの最低値)÷(n日間のRSIの最高値ーn日間のRSIの最低値)
計算期間のnは任意ですが、シャンデ達は14や20を使っていたようです。
利用方法はRSIと同じです。
上記のトゥーシャー・シャンデは、1995年にアルーン(サンスクリット語で「夜明けの光」)というオシレーターと、その派生指標としてのアルーンオシレーター(AO)を発表しました。
その内容は、テーマから逸れますので、今回は省略します。
(3)方向性指数(DMI)
先ほども述べたように、DMI(Directional Movement Index:方向性指数)も、ワイルダーが1978年に発表した代表的なオシレーターの一つです。
「Directional」には「方向指示器」という意味もあり、「変化の方向を示す指数」ということのようです。
DMIには、中間指標として、➊DM、➋TR、❸DI、➍DXが出てきます。
以下、順に説明します。
➊DM
PDM(プラスDM)=当日高値ー前日高値(ただし、PDM<0、もしくは、MDM>PDMなら、0とします。)
MDM(マイナスDM)=前日安値ー当日安値(ただし、MDM<0、もしくは、PDM>MDMなら、0とします。)
これは、PDMとMDMを比較して、値の大きい方に相場が動いていると捉えていることになります。
仮に相場が動いている上方向に動いている場合、下方向の動きは無視されます。
価格は必ず上下どちらかに動き、上下同時には動かいないからです。
DM幅の大きい方を相場のトレンドとみなすのです。
もっとも、現実には、当日の値動きが前日の値動きの中に全て収まってしまったり(「はらみ足」)、
当日の高値・安値が前日と全く同じになったりすることもあります。
これらの場合は「ゼロDM」とされ、方向性はないことを意味します。
❷TR
TR=ⓐⓑⓒの最大値:ⓐ=当日高値ー当日安値、ⓑ=|前日終値ー当日高値|、ⓒ=|前日終値ー当日安値|
ATR=TRのn日SMA(単純移動平均)
ワイルダーは、計算期間nを14日とするのがよいとしています(∵平均的なサイクル28日の半分)。
前述のDMはトレンド方向に動いた値幅を表します。
ですが、DMだけでは、その動きが大きいのか小さいのか分かりません。
そこで、ワイルダーは日々の変動幅(ボラティリティ)と比較することを考えました。
日々の変動幅は、当日の高値と安値の差に代表されます。
ですが、当日がストップ高やストップ安で価格が一つしかなかった場合に変化なしとするのは変です。
そこで、前日の終値からの変動幅も考慮される上記の公式が考え出されました。
さらに、TRは日々の変化が大きいため、平均値で変化の傾向を見ることになりました。
それが、ATRです。
❸DI
ATRと比較して、上昇傾向がどの程度の大きさだったかを+DIで表し、同様に、下降傾向がどの程度の大きさだったかをーDIで表します。
+DI=PDMの14日SMA(単純移動平均)÷ATR×100
ーDI=MDMの14日SMA(単純移動平均)÷ATR×100
上昇(下降)トレンドでは、+DI(-DI)がーDI(+DI)を上回って推移します。
+DI(-DI)が増大すると同時に、ーDI(+DI)が減少するときは、上昇(下降)の勢いが強いといえます。
+DI(-DI)がーDI(+DI)をまだ上回っていても、+DI(-DI)減少すると同時にーDI(+DI)が増大するときは、すでに下降(上昇)トレンドに転じていることが多いです。
そこで、基本的には+DI(-DI)がーDI(+DI)を上回ったタイミングで買い(売り)シグナルとするといった使用方法が考えられます。
❹DX
+DIとーDIから、DXというトレンドの強度を測る指標を算出できます。
DX=|+DIーーDI|÷|+DI+ーDI|×100
DXは狭義のDMIです。
上昇傾向と下降傾向が同じ値のときは、DX=0です。
いずれか一方が0となったときは、DX=100です。
それ以外の場合は、中間の値となります。
ワイルダーは、DXを平準化するため、その14日移動平均を計算して、ADXと名付けました。
ADX=DXの14日SMA(単純移動平均)
ADXをさらに平準化したのがADXRです。
ADXR=(ADX+14日前のADX)÷2
ワイルダーは、ADXRが20よりも小さいと価格変動の兆しがあり、25より大きいと均衡点の間隔が広がると分析しています。